ウタウ☆カイゾクダンッ!せんちょー。
「おまえたちハッピーかい!」「イェー!」せんちょー。(船長)の呼びかけに子どもたちが元気な声で答える。こうして『ウタウ☆カイゾクダンッ!』のジャングルパークでの冒険がスタートする。
保育園・幼稚園での公演依頼、企業・行政などからの依頼によるライブ、大きなホールで開催するコンサート、この形をベースにファミリーコンサート・公演活動を続けている『ウタウ☆カイゾクダンッ!』。結成20周年を迎え、保育園・幼稚園での公演は1,000ヶ所以上、その他の会場も含めると2,000ヶ所以上になるという。その一つ、3月に行われた晃望台幼稚園(栃木県鹿沼市)での公演後、カイゾクダンッ!(海賊団)のせんちょー。に活動に至る経緯や、活動に込めた思いを聞いた。

シングルファーザー、そしてカイゾクダンッ!のせんちょー。へ
今年20周年を迎えた海賊団の活動、それ以前にはせんちょー。のシングルファーザーでの子育てが始まっていた。
「娘が3歳になる少し前、私が20代のときに妻が病気で他界。シングルファーザーとして大変な時間を過ごしました。その後エイベックスの音楽作家事務所に所属し、2003年に音楽作家としてデビューしました。その関係で2005年に小学校教諭の友人に頼まれ、学校の芸術鑑賞会に出演しました。児童が100人にも満たない小さな学校で予算も少ない中、何かコスチュームを着ることで子どもたちが喜べばと、当時自分が好きだった漫画『宇宙海賊キャプテンハーロック』を模したコスチュームで出演しました。これが海賊として舞台に立ったスタートです。オリジナルソングを披露したこの公演は、子どもだけでなく教師や保護者からも好評で、同校の校長先生から多くの親子のためにも、この活動を続けることを勧められ、後に海賊団として本格的に始動することになりました。キャプテンハーロックは世界観が暗いため、衣装も明るいものにチェンジし、今のスタイルになっています。」
カイゾクダンッ!のクルーは12人、それぞれ本業をもち公演の開催に合わせ、スケジュールの合うクルーが出演している。
テレビ出演、各種大使就任、講演等多岐に渡る活動
「世界中の子育てを笑顔にするため、虐待のない未来を目指し、音楽で子育てを応援する」をモットーとしたカイゾクダンッ!の活動。これを軸にせんちょー。はさらに幅広い動きをしている。2014年に群馬県太田市子育て親善大使就任、以降も数々の大使等に就任しており、2009年より2011年までは、NHK Eテレ「みんなの手話」にレギュラー出演していた。さらに、全国で「歌う海賊団ッ!船長の喜ばせ学」をテーマに講演会等も行なっている。

20年間の出会いと気づき
「結成から20年これまでの活動の中で、様々な出会いや気づきがありました。中でも障がいを持った子どもさんとその親ごさんは、我々の想像以上に大変な日常を過ごしていることを知りました。最近ですと、栃木県内にある、教会が運営している『ヒカリ園』でコンサートをした、その後のエピソードです。その会場を訪れた園児の一人に、病気のためひきつけが起きてしまうお子さんがいました。コンサートの時は症状も安定しており、安心していたそうです。しかし昨年暮れに発作が起こり救急搬送されました。入院後、3日間はひきつけを繰り返し、眠ることもできなかったようです。その後やっと落ち着いて眠っていましたが、しばらくして寝ぼけてコンサートで皆んなと歌った『ゲンキのジュモン』を歌い出したそうです。『自分は我が子の将来を不安に思っていても、子どもは夢の中で楽しい時間を過ごしている…。』お母さんはその姿を見て自分も頑張ろうと決意を新たにしたそうです。」
こういった手紙やメッセージが届くことも多々あるようだ。どこの家庭にも程度の差こそあれ、様々なストーリーがあり、それぞれに頑張っているのだと実感しながら活動しているという。

発元気を回すコンサート
「我々は『発元気を回す』と言いますが、これは私たちの体の中には発電機ならぬ『発元気』があり、自分自身で元気を作り出すことができるというものです。元気な人の近くにいると元気になれるというのは、元気な人に誘発されて、自分の発元気が回り出すのです。我々のコンサートは、カイゾクダンッ!の船に乗船した皆さんの発元気を回してあげること。そして会場を出た後も発元気が回り続けるように思いを込めて皆さんを盛り上げます。元気を届けるというよりは『一緒に元気になる!』といった感じです。」
カイゾクダンッ!が活動をスタートした2005年は、熊本県で赤ちゃんポストができる等、子育ての問題が全国でクローズアップされ始めた頃であり、虐待・貧困と子どもたちを取り巻く課題は、その後もエスカレートしている。問題解決には地域の力も欠くことができない。地域力をつけるには、そこで暮らしている一人ひとりが元気になることだとせんちょー。は語る。
「コンサートで発元気を回した人が、地域に帰って発元気の連鎖を広げることで、地域全体を元気にできると思うのです。我々の活動はそのきっかけです。」


カイゾクキッズが、お父さん・お母さんを応援
「今後の活動では、子どもたちの発元気を回すことを考えています。<カイゾクダンッ!主催><依頼を受けて開催><オンライン開催>この3パターンのコンサートでそれぞれグループを作り、子どもたちが元気なカイゾクキッズとなって、お父さん・お母さんを応援します。カイゾクダンッ!の活動は、子どもたちを笑顔にすることは勿論ですが、子育てやこの大変な世の中を生きていく、大人たちを応援する意味合いが強いのです。」
この取り組みをこんなストーリーにして子どもたちに伝えている。
「ー今、世界はイライラ魔王が君臨していて、世界中にイライラ菌を撒き散らしている。そのために、事件・暴力、果てには戦争が起こっている。このイライラ魔王をやっつけるのが海賊船に乗船した、カイゾクキッズたちなのだ!ーこの物語の中で、せんちょー。がカイゾクキッズたちに「親子でダンスをしてみよう」「親子で工作を作ってみよう」など、様々なミッションを与えます。カイゾクキッズになりきって、親子で楽しい時間を過ごし、エンターテインメントのステージからイライラ菌を無くし、ニコニコ菌を拡散する。この輪を広げていきたいのです。
今までも、我々の元には、子どもたちが歌い踊る動画が送られてきていましたが、自分たちが楽しむだけでなく、オンラインで世界に配信し、これを原動力として世界中の親子と一緒に元気になろうと考えています。」
インタビューの当日、晃望台幼稚園の園児たちがキラキラと目を輝かせていたように、ニコニコ菌が拡散され世界中に笑顔が溢れる。そんな未来が訪れるまで、ウタウ☆カイゾクダンッ!の航海は続く。

Profile
1968年、宇都宮市生まれ。大学時代にバンド活動をはじめる。エイベックスの音楽作家事務所に所属し、2003年「ときめきメモリアル」テーマソングで音楽作家デビュー。2005年11月『歌う海賊団ッ!』活動スタート。2015年所属事務所を退所、一般社団法人「発元気プロジェクト」設立。2011年栃木県とちぎ未来大使就任。その他大使就任など社会活動多数。
文/松尾幸子
写真/浦嶋大威介