昨年11月号minimuに登場したフラメンコ舞踊家・吉澤暁子さんと共にフラメンコライブに立つ、ギタリストの藤木俊平さんと加藤明さん。それぞれWebデザイナー、バイクデザイナーというもう一つの顔を持っている。二人にとって「フラメンコ」「デザイン」とは何か、その思いを語ってもらった。
フラメンコギターとの出会い、きっかけとなる出来事や人物

藤木俊平さん(以下:藤木) :高校生の頃、エレキギターに夢中になり、その後はシンセサイザーを使った打ち込み音楽やDJ活動など、さまざまな音楽に触れながら五感を使って音楽を深く感じ、その世界を広げていきました。この時間は、今の自分にとって大きな糧となり、フラメンコギターの伴奏にも生きていると実感しています。
若い頃、電子音楽の持つ自由な表現力に惹かれていましたが、ある時、イビザ島で世界的に活躍するDJホセ・パディージャ氏の音楽に触れ、その深さと情熱に心を打たれました。その出会いがきっかけで、スペインの音楽文化に興味を抱くようになり、フラメンコの魅力に気づくことができました。フラメンコは、ギターの音色、即興の要素、民族音楽のエネルギー、舞踊との調和など、さまざまな音楽の要素が一体となった、非常に豊かな音楽だと感じました。
さらに、尊敬する日本のフラメンコギタリスト、片桐勝彦氏に師事したことが音楽の新たな扉を開いてくれました。技術を高め、フラメンコの真髄に触れ、少しずつ自分の音楽を形作ることができました。
加藤明さん(以下:加藤) :きっかけは大学に入学後、フラメンコサークルの新入生歓迎ライブを見に行ったことです。その時、ゲストとして招かれたプロのフラメンコギタリストの演奏に衝撃と感銘を受けました。ギターが奏でる情熱的な音色はもちろん、他に類を見ないその手の動き、奏法に一瞬で引き込まれ、まさにその瞬間が、私のフラメンコギターへの道を決定づけました。
日本では、特に学生でフラメンコギターを弾いている人は非常に少ないため、その希少性が逆に深い絆を生み出します。学生が主催するイベントには常に、プロのギタリストが参加して下さり、彼らの演奏を間近で見ることができました。その中でも、藤木俊平氏の師でもある片桐勝彦氏は、私たちに寄り添いながらいつも背中を押してくれる特別な存在でした。プロのサポートがあったからこそ、自分たちのフラメンコに対する情熱や学びをさらに深めていくことができました。
フラメンコ&フラメンコギターの魅力は

藤木:フラメンコの最大の魅力は、歌、ギター、踊りが一体となって生まれる即興性にあります。この三つの要素が共鳴し、感情の高まりを音楽に乗せて表現する瞬間は、まさにフラメンコの魂そのものです。その瞬間にしか生まれないエネルギーが、聴く者や見る者の心に深く響きます。
私自身、ロック、ブルース、カントリー、ジャズ、ボサノバ、クラシックギターと、さまざまなジャンルのギターに触れてきましたが、フラメンコギターほど自分の内面をダイレクトに、そして自然に表現できるものはなかったように感じています。
スペインがギター発祥の地とされる中で、フラメンコギターはその音色、リズム、奏法に民族音楽の深い伝統を宿し、演奏者の心に訴える力を持っています。リズムが瞬間ごとに変化することで、その一音一音が生き生きとしたものになり、その変化に合わせて自分の気持ちもまた動かされる。そんな瞬間を大切にしています。
若い頃はフラメンコギターの本当の魅力や深さを理解するにはまだ未熟でしたが、年齢を重ねるにつれて、その本当の力を、少しずつでも感じることができるようになりました。それは私にとっての大きな喜びです。
加藤:フラメンコギターは、あらゆる音楽ジャンルにおいて、ギターが最も高度な奏法を要求される楽器であると感じています。バンド形式では、ドラム、ベース、ギターの三役を一人で担うという重責を背負いながら、その全てを自分の指先で表現することが求められます。
さらにフラメンコは譜面が存在しないジャンルであり、その自由度の高さが最大の魅力です。決まったルールや制約に縛られることなく、ギタリストの内面から湧き上がるメロディーがそのまま音として即興で表現される瞬間こそが醍醐味です。
踊り手が演技をする俳優であるならば、フラメンコギターはその舞台音楽や映画音楽を奏でる役割に似ています。ギタリストの感性一つで舞台の魅力が大きく変わるのです。まさに、ギターの音で歌い手と踊り手が息づき、観客の心をつかむ瞬間を作り上げるのです。それこそが私をさらに駆り立てる原動力となっています。
それぞれ「Webデザイナー」「バイクデザイナー」としての仕事に携わるきっかけ
藤木:音楽は私の魂そのものであり、学生時代から音楽家になることを心から夢見て、その道を歩んできました。しかし、音楽だけで生計を立てることが難しい現実を受け入れ、幼少の頃から手先が器用で、図画工作が得意だったので、その特技を活かしてデザインの道に進みました。
現在、Webデザイナーとしての仕事に情熱を注ぎながら、休日にはフラメンコやミュージカルなど、芸術に触れる時間を大切にしています。フラメンコを続けているからこそ、デザインの仕事にも良い影響を与えていると感じています。音楽とデザインは一見異なる分野に思えますが、両者には「人々の心を動かし、感動を与える力」が共通して存在しています。
現在はユニバーサルデザインを専門に、医療、教育、文化芸術、環境、エネルギー、金融など、さまざまな公的機関のウェブサイトを手掛けています。これからも、音楽とWebデザインの両方に情熱を注ぎ続け、社会に貢献できるよう努めていきたいと思っています。

加藤:私がバイク開発に携わるきっかけは、幼少期からの車やバイクへの深い愛情から始まりました。バイクは単なる移動手段にとどまらず、自由を感じさせ、冒険心を駆り立てる存在です。デザインの世界に足を踏み入れるきっかけも、この情熱が原動力でした。
大学では彫刻科を専攻し、形と空間に対する感覚を養いました。その中で、バイクのデザインにおける美しさと機能性の両立に強く魅了され、この道を選びました。
「デザインは形だけではなく、人々の心に触れるものだ」という信念のもと、自由で快適で美しいバイクを作りたいという一心で仕事をしています。バイクは、見た目の美しさだけでなく、乗り手の体験、動き、そして感情や生き様にまで影響を与えるものです。その全てをデザインに込める過程こそが、私にとって最大の魅力であり、挑戦でもあります。
バイク開発は単なる技術の追求ではなく、感動を生み出すアートのようなものだと思っています。それを通じて、自分の手で人々の心に届く「感動」を生み出し、バイクの魅力を世界中に広めていくことが、私にとっての使命だと感じています。

Webデザインとフラメンコギターとの関わり方、及び共通点

藤木:ギターとWebデザイン、どちらも私の心の中で燃え上がる情熱の源であり、創造性を最大限に発揮できる活動です。異なる形の表現ですが、根底にあるエネルギーや情熱は共通しており、それが私を前進させ続けています。
仕事としてのデザインでは、クライアントのニーズに応え、課題を解決し、報酬を得る責任があり、常に新しいアイデアを追い求め、予想を超える感動を届けることを心がけています。単なる「作業」ではなく、まるで一つの芸術作品のように心を込めて創り上げるものです。
一方で、フラメンコギターは、言葉では表現できない自由と感動が詰まった世界です。
私にとって、趣味と仕事の両立は単なるバランスの問題ではなく、それは人生そのものであり、両方の活動が相乗効果を生み出し、互いに深く影響し合っています。
バイクデザインとフラメンコギターとの関わり方、及び共通点

加藤:すべてのものづくりには、揺るぎない根幹があり、それは強い芯であり、その周りに施される装飾がその魅力を際立たせる。この芯こそが、すべての命を吹き込む源であり、その力が作品に魂を宿すのです。しかし、何よりも大切なのは、自分が心から信じる「かっこいいもの」を追い求め、決して妥協しない揺るぎない精神です。
形だけでは決して心は動かせません。心が込められたものこそが、見る者、触れる者の魂を揺さぶり、永遠に響き渡る力を持つのだと思います。
それぞれ今後の活動目標やプランについて
藤木:デザイナーとしての最も強い目標は、日本のデザイン業界の社会的地位を根本から向上させることです。特に、公共機関のウェブサイトがすべての人にとって利用しやすいものになるよう、バリアフリーなインフラの構築に力を入れ、誰もが平等に情報にアクセスできる社会の実現を目指しています。私にとって、デザインは単なる仕事ではなく、社会に対する貢献であり、人々の生活をより豊かにする手段だと信じています。
フラメンコギタリストとしては、純粋にもっと上手くなりたいという強い思いがあります。そして、できる限りプロフェッショナルとしてギャラをいただきながら、音楽の道でも生計を立てられるようになりたいと思っています。足利出身でスペインでフラメンコを学んできた同世代の吉澤暁子さんを中心に、素晴らしい仲間たちとの絆も更に深めていきたいです。
また、私は東京で育ったため、両毛地域での活動に特別な魅力を感じています。さらに、加藤明氏とユニットを組んで活動できることも、私にとって非常に幸運なことです。お互いに切磋琢磨しながら、新たな挑戦を通じて深い友情を育んでいきたいと思っています。
加藤:バイクデザイナーとして、これまで多くのチャンスに恵まれ、販売実績も順調に伸びてきました。そして、それを支えてくださるライダーの皆様には、心から感謝の気持ちでいっぱいです。特に、REBEL 250と REBEL 500は、どちらも国内の売り上げ台数1位を何年も維持し続けており、その支持は大きな励みとなっています。また、HONDA FORZA 750についても、私がデザインに携わったバイクとして、2021年にドイツのレッドドットアワードを受賞し、その革新性とデザイン性が世界的に認められたことは、大きな誇りです。この受賞は、FORZA 750が未来のライディング体験を提供する革新的なバイクであることの証明です。これからも「これが自分の代表作だ」と誇れるバイクを創り出すために日々邁進し、より多くのライダーに感動を与えるようなバイクを生み出していきたいと思っています。
フラメンコギタリストとしてのギターは、私にとって単なる楽器ではありません。ギターは、人生そのもの。生涯を通じて付き合い続ける最高の友であり、魂の叫びを響かせる唯一無二のパートナーです。
また偶然にも、藤木氏と私は同い年であり、幼少期から手先が器用で図画工作が得意だったことや、中高生の頃はエレキギターに夢中になっていたこと、さらには趣味でバイクが好きなことなど、多くの共通点があります。不思議なくらい気の合う藤木氏とフラメンコギターでユニットが組めることは、この上ない喜びです。私たちのフラメンコが、少しでも多くの人々の心に響き、次の世代のフラメンコギタリストが育ち、フラメンコの仲間が増えていくことが、私の夢であり、藤木氏と私の目標です。

バイクデザイナー/フラメンコギタリスト
加藤 明 さん
かとう あきら/
1978年1月生まれ、埼玉県羽生市出身。中学生の頃、エレキギターを独習。多摩美術大学在学中にフラメンコと出会い、舞踊伴奏を中心にフラメンコギターを独習。卒業後は本田技術研究所へ就職し世界各国のバイクをデザインする傍ら、日本各地で多くのタブラオでのライブ、公演等に参加しながらプロの日本人アーティストと数多く共演している。

Webデザイナー/フラメンコギタリスト
藤木 俊平 さん
ふじき しゅんぺい/
1977年4月生まれ、東京都出身。株式会社オーエムシー IT事業本部 課長。1級ウェブデザイン技能士。高校生の頃、エレキギターを独習。その後、シンセサイザーによる作曲家活動、DJ活動を経て、即興音楽、民族音楽、フラメンコに惹かれ、フラメンコギターを片桐勝彦氏に師事。現在、舞踊伴奏を中心に多くのフラメンコライブ、公演等に参加しながら、フラメンコやミュージカルなど総合芸術に力を入れている。
取材/松尾幸子 写真/浦島大介
協力/DANIEL HOUSE(太田市)
7月12日(土)ココ・スプーン 開場17:00 開演18:00
7月26日(土)本城2丁目夏祭り 出演予定
9月13日(土)DANIEL HOUSE 開場17:00 開演18:00
12月14日(日)ココ・スプーン 開場17:00 開演18:00
♦チケット販売・お問い合わせはお店まで
ココ・スプーン 0284-41-3399
DANIEL HOUSE 0276-47-1222