若杉実の裏口音学 Vol.136

OST
『The Running Man』
(Varèse Sarabande)
目次

士走

 『ランニング・マン』のリメイク版が11月全米公開された(日本は来年初春)。「はて、リメイクもなにも、過去にあったかそんな映画!?」ーーわたしたちの感覚からしたらこんなところだろう。だが、わが業界には邦題という文化的副産物があることをおわすれなく。ときにはそれが原題以上にインパクトを与えたりする。『ランニング・マン』はそのままでもイケたようにおもえるが、最初の公開では『バトルランナー』(1987年/写真)と改題され、主演のアーノルド・シュワルツェネッガーの人気と相まって、日本での興行成績も上々だった。

 原作はリチャード・バックマン(スティーヴン・キングの筆名)が1982年に発表した同名小説。翻訳も出たが、公開と同年だったため基準がどちらかはわからない。どのみち“ランニング・マン”では物足りないと判断されたことになる。

 その理由として、ルームランナーのような健康器具をイメージしてしまうから、と他愛のない推測をしてみたが、アメリカでも反復走行といえるあの動きを想像したひとはいた。ダンスステップ、その名も“ランニングマン”は劇中のダンス・シーンを振り付けしたポーラ・アブドゥルが発案したという。ジャネット・ジャクソンの『Control』(1986年)も前年に担当しているが、ジャネットにはそのときランニングマンを伝授したというエピソードもある。

 以上の情報源はウィキだが、劇中にランニングマンは登場しない。あくまでもネーミングの由来になったという話らしい。個人的にはニューヨークのダンサーの解説動画で知ったが、いずれも掲載されたのは比較的最近ではないだろうか。ランニングマンのルーツをかつて調べたとき、検索ではヒットせず。アメリカではそもそもランニングマンとは呼ばれていない、走っているようにはみられていないから、というオチまでついたからである。六本木のディスコでも70年代に似たようなステップが目撃されていたという証言もあった。

 ダンスには譜面がなく、いつだれがどこで発案・発表したのかといった記録がない。そのためテレビが普及する以前は映画が教科書だった。ムーンウォークも、有名な『Flashdance』以前に『Cabin In The Sky』(1943年)にてタップダンサーのビル・ベイリーが披露していたことが知られている。ムーンウォークという名称もまだなく、マイケルが披露するまではバックワード・モーション・スライドと呼ばれていた(以上は過去の回でも紹介)。ランニングマンも足の運びはほぼおなじ。タップがルーツとみていいだろう。

 ジャネットの『Control』がニュージャックスウィングの萌芽のひとつに数えられるように、ランニングマンとニュージャックはセットで語られ、それらをふくむダンススタイルをニューダンスと呼んだ。ブレイクダンスに引導を渡すことになったが、個人的にはふつうのダンスにもどった印象があったため、思い入れはさほどない。かの錦織一清もランニングマンには惹かれなかったという。歴代アイドル中、最高峰のダンサーをしてなにがあったのか。ランニングマンを機にL.L BROTHERS、ZOO(のちのEXILE HIRO在籍)、trf、B☆KOOLなど、非ジャニーズの足音が近づいてきた背景との関係が気になる。

PAULA ABDUL

『Forever Your Girl』

(Virgin)

チアリーダーからダンサー、シンガーへと出世街道を駆け抜けたポーラの1988年の1stアルバム。エレクトロポップのコース料理ともいえる多彩さと、ジャネットのつよいアクを抑えたような歌唱が、ブラックに限定することなく万人向けに昇華、ビルボードの首位に輝く。映画(原作)は2017年のアメリカが舞台。世界経済の崩壊と格差社会のなか、唯一の娯楽であるテレビのデスゲームに熱狂する民衆の欲望がえぐり出される。つまり未来は現実のものになった。

Profile
若杉実/わかすぎ みのる:足利出身の文筆家。 CD、DVD企画も手がける。 RADIO-i (愛知国際放送)、 Shibuya-FMなどラジオのパーソナリティも担当していた。 著書に『渋谷系』『東京レコ屋ヒストリー』 『裏ブルーノート』 『裏口音学』 『ダンスの時代』 『Jダンス』など。ご意見メールはwakasugiminoru@hotmail.com

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