
『Expo Expo』
(Rhythm Zone)
万博 万博
4億円の休憩所に2億円のトイレ。バブル時代のネタだとおもったら開幕したばかりの大阪万博の話というからびっくり。収益が赤字になるのも確定済み。府知事の所属政党は、目下話題の財務省のポチになられたらしい。
こんなことならバーチャルなんとかで時代相応に済ませておけよ、とおもったら先刻承知よとホームページにアップされていた。さすが、中抜き万博と揶揄されるだけのことはある。多重の下請け構造だけは抜かりない。
実際にバーチャルだけでやっていたなら評価は真逆だっただろう。ただし音楽の世界でバーチャル万博はすでに実現していた。m-floが2001年にリリースした2枚めのアルバム『Expo Expo』のコンセプトは、“2012年に開催されるバーチャル万博”。インタールードがいくつも設けられ、各々にゲート名(正門、東門……)を振り当てることで会場マップに見立てている。楽曲もバリエーションに富み、CMとのタイアップが2曲。さしずめ企業館といったところか。
かたや最新のダンスミュージックはテクノロジーの粋を集めた未来館。そのうちのひとつ、表題曲「Expo Expo」に客演するのは、還暦祝いの新作が話題のテイトウワ。ポエトリーリーディングをするのに、開発されたばかりのCHATR(音声合成システム)を駆使している。緩急自在のトラックはさしずめリズムの祭典で、ブレイクビーツの記録映画、歴史館のよう。こうして聴くのも二十数年ぶりだが、当時の生活背景までもが鮮明に浮かんできた。
おもえばm-floとの個人的な接点は、仕事上、精神的なものとはいえ奇妙な縁をもたらすものであった。『Expo Expo』をさかのぼること3年、無名の新人として取材した日からはじまる。金の卵かタダの卵か、それすら判断できなかった彼らが、あれよあれよというまに頭角を現す。最初の頂点が『Expo Expo』であり、それを象徴するシングル「Come Again」では、当時最新のダンスミュージックだった2ステップとの蜜月で、Jポップにあらたな息吹を注ぐことに。この1曲からひろがる淡い心象風景が、2ステップの旗振り役を買って出た往時のわたしを呼び戻すのである。
「Come Again」ではそのように弾んでうたってみせたLISAだが、アルバム後半のバラード「Yours only,」になるといつになく神妙な面持ちで旋律に寄り添う。テーマは愛と死。何の因果かこの曲を最後に脱退(後年復帰)、ソロに転じた。この時点で彼女がリードをとるのは、その2曲を入れても数えられるていど。意外だが、ダンス音楽系の歌手にはよくある話。持ち回りの過少がストレスの原因になりやすい。LISAがそうだというわけでもないが、歌手である以上、センシティブなことには敏感にならざるをえないだろう。
はたと想い出す、最初の取材で怒り泣きされてしまったことを。VERBALと☆Takuとの話が止まらなくなり、さぁこれからというときに業を煮やされ中座されてしまった。すぐに詫びみんなで慰め事なきをえたが、大物の相がすでにあったということだろう。先般、出演したテレビ番組にて結婚報告をしたらしいが、彼女ならだいじょうぶ。なにがだいじょうぶかって、それはわからないけど。

BOOGIE DOWN PRODUCTIONS
「The Bridge Is Over」
m-flo
「Come Again」
(Rhythm Zone)
LISAが敬愛するユーミンの旦那まで称賛。ヒットの要因が2ステップ云々ではなかったことはあきらか。VERBALのラップ不要論もある所以だが、そこはクレイグ・デイヴィッド「Rewind」の物語性とTRUE STEPPERS「True Step Tonight」の構成を模していることまで踏み込みたい。多数生まれたカバーも当初はラップ抜きが主流で、近年(IS:SUE他)になるほどラップ入りに。その潮目に、藤井風の動画の影響を読む。
Profile
若杉実/わかすぎ みのる:足利出身の文筆家。 CD、DVD企画も手がける。 RADIO-i (愛知国際放送)、 Shibuya-FMなどラジオのパーソナリティも担当していた。 著書に『渋谷系』『東京レコ屋ヒストリー』 『裏ブルーノート』 『裏口音学』 『ダンスの時代』 『Jダンス』など。ご意見メールはwakasugiminoru@hotmail.com