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若杉実の裏口音学 Vol.124

2024 11/12
裏口音学
2024年11月11日2024年11月12日

もうひとつの赤道小町

 80年代に母国香港と日本で同時デビューしたプリシラ・チャンが1988年にリリースしたリミックス集『Remix』が再発された。店のポップに「世界中のDJが待っていた」との触れ込みが躍る。その世界中のひとりにわたしを入れてほしい。お礼に、その世界中のDJが気づいていないだろう秘密を教えるから。彼らに人気の「地球大追蹤」の冒頭に、山下久美子の「アニマ・アニムス」(1984年『Anima Animus』収録)がひそかに引用されている。神秘的な詠唱で、クミコも冒頭に導入していた。
 枝葉末節とはこういうことだが、それで解決できるならここでの看板“裏口”も外さなければならない。ではなぜ使ったのか。無許可であるのは確定とみて、プリシラの制作陣が聴いていただけではなく、背中を丸め熱心に研究する姿が浮かんでくる。
 日本の歌謡曲はいまでいうK-POPだった。大陸の関係者はわたしたちから多くを学び、自分たちのCDが日本市場に並ぶ光景を夢見た。とりわけ香港のポップスは植民地時代の影響もあり、洋楽のカバー(歌謡曲も)を1、2曲アルバムに入れる傾向がある。「地球大追蹤」もモリ・カンテ(ギニア)の「Yé Ké Yé Ké」(1987年)が原曲だが、その情報の仕入れ先も意外と六本木WAVEだったのではないか。アジア一の専有面積を誇ったビル3階にて、ワールドミュージックを先がけ紹介していた伝説の売り場である。
 クミコはそこにどう絡むのか。たとえばK-POPは準・邦楽みたいなものだが、80年代のアジアンポップスは、洋楽では物足りなくなった通人がワールドミュージックの難関と課題に掲げるジャンルだった。演奏家ならニューウェイヴの一要素だった第三世界の音楽を経由し吸収したりしたわけだが、クミコの制作陣もそうやってアンテナを張り、アジアの“どこか”に精神を着地させていたにちがいない。
 事実、その答えを表紙の男女が出している。ほぼ裸にみえるが、これはミクロネシアの祭祀“カマテップ”で歌や踊りを披露する際の民族衣装らしい。例の詠唱もそういうことになる。
 そのことを頭に入れ彼らの解放的な正装を見直すと、クミコの過激な舞台衣装と奇しくも重なり、「赤道小町ドキッ」が胸を突き刺す。影響力は絶大だったが、2年前のヒット曲を引きずるわけにもいかない。ディレクターはそう考え『Anima Animus』を新たなステージと位置づけ、若手で固めたスタッフに勝負を託す。
 発火点となったのが、言霊とは信じるもの、を地でいく銀色夏生の独創的な歌詞。後藤次利の大仰なアレンジもここではデカダンということばを自然に引き出し、北島健二の飛び出しナイフのようなギターがパンクの領域にクミコを連れ込む。この音こそいま再評価されるべき、と二十数年前に気づいたタイミングが、プリシラのようなアジアものを探していた時期と重なり、詠唱が同一であるのをぐうぜん発見したのだった。
 ただし80年代に80年代のことは再評価できない。この法則がディレクターを悩ます。シングルには使えない曲ばかりで、営業から雷を落とされるが、その上司も上司。「オレが企画を立てる」とMVの撮影を断行、それも異例の全曲。演出に故・景山民夫を急きょ呼び、飛ばした先が赤道の楽園ポンペイ島だったのである。

山下久美子
『Anima Animus』
(Columbia)

PRISCILLA CHAN
『Remix』
(Polydor)
18歳のとき『少女雑誌』(1984年)でデビュー。同年、日本語詞のEP「千年恋人」もリリース。本作の「地球大追蹤」は直訳ではなく、原曲モリ・カンテのMVの内容(追跡シーン)からインスパイアされたとおもわれる。ほか「傻女」(カラオケ版)は不動の人気につながったバラード。夜更けに疼く失恋の傷がつづられる。クミコのポンペイ島でのMVはVHS『黄金伝説』として発売。デビュー40周年記念の2020年にDVD化された。

プロフィール
わかすぎ みのる:足利出身の文筆家。 CD、DVD企画も手がける。 RADIO-i (愛知国際放送)、 Shibuya-FMなどラジオのパーソナリティも担当していた。 著書に『渋谷系』『東京レコ屋ヒストリー』 『裏ブルーノート』 『裏口音学』 『ダンスの時代』 『Jダンス』など。ご意見メールはwakasugiminoru@hotmail.com

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