
「世情」(『愛していると云ってくれ』より)
(Aard-Vark)
ビーバップとビバップから考える不良の美学
栃木県立高校のトイレで暴行をくわえる動画が拡散され大問題になっている。とうぜんだが、加害者側が証拠を公開するなんてマヌケすぎ。風上にも置けないワル、いや、それ以下だろ。
ただしこのニュースでうん十年ぶりにおもいだす、高二のとき似たような場に遭遇したことを。友人が上級生に呼ばれトイレでタイマンを張り、見届け人の輪にわたしもいた。タイマンだから仕掛けたのは友人とも考えられる。記憶が曖昧だが、自分も居合わせたことがなにより不可解。社会勉強とでもおもったのか。あの時代はだれもが“3年B組(金八先生)”の生徒になりたがっていたし、暗すぎて聴けない中島みゆきも「世情」がドラマに使われ例外をつくってしまった。
それにしてもヤンキーはなぜトイレが好きなのか。そんな本が一冊あってもいいが、現実はなかなかどうして。臭うわ寒いわ滑るわの悪条件のなか、タイマンでもその弊害が出ることに。結果的に始業のチャイムに救われ生々しいケチャップを見ずにすんだが、上履きが健康サンダルだったため(謎だが現在も全国に普及)、つかみ合いの最中、滑る滑る。傍観しながらあたまの中では「世情」とコントのような絵がスロー再生され、内心ほくそ笑んでいた。
愛嬌あってのヤンキーの性。そう誤解しているなら漫画の読みすぎだろう。ただし冒頭の事件は弱者へのいじめ、ヤンキーにもなれない悪である。ヤンキーも基本クールではないし、頭髪に白いのが混じりだしたころに武勇伝として語るなんてイタすぎる。
しかし現状はちがう。考えるまえに語る生き物を量産するSNSの時代にあって、「むかしはワルだった」と自称するひとのなんて多いことか。昨年公開40周年だった『ビー・バップ・ハイスクール』が引き金となり、目に余るほど巷間にあふれている。
語る者は知らず、知る者は語らず。だからだろう、原作きうちかずひろ本人ですら語らないことがあった。それはヤンキーの代名詞となった外題が、故郷の福岡が誇るダンスグループBE BOP CREWから拝借し名づけられたことである。元来ジャズ用語のBE BOP(ビバップ)をダンスのクルーに冠す。実験精神あふれる洒脱なジャズメンにシンパシーを抱いたのだろうが、そんなクールなダンサーにあこがれていたのがほかならぬ、きうち。ヤンキーが羨望の的ではなかったのである。
あるいはこうも解ける。ヤンキーイズムとは本来悪事に手を染めないワルなのだと。きうちは登場人物のノブオに自分との類似性があるという。ノブオは主人公ヒロシとトオルの舎弟で、後輩からも慕われるなど場をつくるのが上手。ヤンキーにはちがいないが、腐ったミカンほど下衆ではない。不良漫画の中立性に欠かせないキャラに作者が込めた意図がそう読める。
「世情」が生まれたころの時代精神はすっかり風化した。中島は学生運動の残像から正義の真理を導き節にのせたが、数年後にそれが校内暴力をテーマとしたドラマに使われ伝説になるとは予想すらしなかっただろう。ただし歌詞「〽︎変わらない夢」にある普遍性は言い得て妙。視点の置き方しだいで“学生暴力”にも“校内運動”にもなる。正義はいずれにもあるのが悩ましい。ひとまず年末から寝かせてあるミカンをいただいてからまた考えてみる。腐りかけがいちばんだから。

OST
『ビー・バップ・ハイスクール 高校与太郎行進曲』
(Warner)
1983年の連載開始から2年めで実写化。シリーズ6作までつづく大ヒットに。画像は初のサントラとなった第3弾(1987年)。40周年記念ではロケ地静岡市でのイベントも開催される。題のネタになったBE BOP CREWにはSMAPの振り付けでも知られる故・坂見誠二が在籍。同クルーの東京支部BLIND BREAKERSにはTRF前のSAMも参加していた。なお、ヤンキー映画の豊作となった同時期に足利スターレーンがロケ地の『シャコタン☆ブギ』(1987年)も公開。撮影中、本物が集結するという想定内のカオスぶりがなつかしい。
Profile
若杉実/わかすぎ みのる:足利出身の文筆家。 CD、DVD企画も手がける。 RADIO-i (愛知国際放送)、 Shibuya-FMなどラジオのパーソナリティも担当していた。 著書に『渋谷系』『東京レコ屋ヒストリー』 『裏ブルーノート』 『裏口音学』 『ダンスの時代』 『Jダンス』など。ご意見メールはwakasugiminoru@hotmail.com
