渡良瀬滑走路 Gate : 41

“トーキョー”は今日も「東京」を過去のものへとぐいぐい前へ進んでいきます。

”浦島タロウ ”

 突然ですが、皆さんは日常生活の中で所謂「浦島太郎状態」になってしまう事はありますか?

 僕は日本を離れて15年以上になり、1年の内に帰国するのも平均2、3回程度なので、一時帰国の期間が空いてしまえば空いてしまうほど日本に滞在している間にかなりの確率で「浦島太郎状態」を経験します。

 そして前回の帰国の際に、まさにその良い例を目の当たりにする事になりました。

 一時帰国の際は基本的に栃木の実家でゆっくりしているのですが、仕事の都合で東京へ行くことも少なくありません。

 毎回東京へ行く際には必ず立ち寄る新宿のとあるスターバックスがあるのですが、前回の帰国時にもそこで一休みをしていました。

 そこは近くに大きな予備校があるので、毎回受験に向けて友人同士で勉強に来ている若い学生をたくさん見かけます。

 今回、僕がたまたま座った席が二人の男子学生が並んで勉強している向かい側でした。

 勉強で忙しいはずの二人。

 ですが集中力の矛先は完全にここに在らずで、楽しそうに2秒に一回は会話をしています笑

 職業柄、こういった具合で遭遇した”知らない人同士の生の会話”に耳を傾けるのが一番本業に活きてくる僕(褒められた習慣じゃないですね。)。

 しばらくすると、勉強がひと段落ついたのか片方の予備校男子がペンを置いて隣の彼にこう言いました。

「ちょっとチルしない?」

 英語と中国が堪能な僕。

「ん?」

 一発目に耳に入ってきた時はすぐに解読できませんでした。

「チルしない?チル?ん?」

 友人を置いて席を立った彼の背中を追いながらやっと頭の中で謎が解けました。

「あぁ、なるほど英語の”Chill = リラックスする”。ちょっと休憩しない?って言ってるのか。」

 タピる、マニフェスト、コンプライアンス、なんとかアラート。

 毎回帰国する度に、日本には本当にたくさんの「カタカナ発明品」が得意げに社会に君臨しています。

 そして英語を話す環境から帰国する度に、改めて日本語でその「カタカナ発明品」の意味を聞かないと解読できません。

 ここ10年以上、日常でも、メディアを通しても、友人同士の会話でも、1年に数回は日本で僕は「浦島太郎」を経験します。

「逆に立場を変えてみたらどんな感じなんだろう?」

 時々そんな風に考えたりもします。

 日本から海外旅行中に、目の前で会話をしていた現地の人たちが急に「HAHAHA!マジで?ウケル、ウケル。」と笑い合っていた。

 こんな感じかなぁ?ちょっと違うかなぁ。

 余談ですが、台湾では時々腰を上げる時に現地の人も「よいしょ」と言う事があります。

 言語の文化はオモシロイですね。

ふくち ゆうすけ

1984年足利市生まれ。俳優。
20代を東京、欧米で過ごした後、独学で中国語を修得。現在台湾、シンガポール、中国、日本を拠点に活動、その各国に主演作品を有している。近年、自身の水彩画やエッセイなどの創作が注目を集め、書籍出版や連載、講演等の依頼へも積極的に参加している。

studio@yuwiyuwiyuwi.com
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