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渡良瀬滑走路 Gate : 35

2025 1/17
渡良瀬滑走路
2025年1月17日
その汗じみにはその時その時の色んな感情が重なり合っています。

” 当事者 ”への境界線

 「月への旅行中、地球との重力の違いに苦労したなぁ。」

 皆さん、この一言を、本当に自分が経験した事として説得力を持ってお友達に話して下さい。

 変な質問ですよね。

 役を演じるという事は、この体験に近いものがあります。

 以前、ニューヨークで現地のベテラン演技指導のコーチがこんなお話をしてくれました。

 「仮に僕が”ベトナム戦争で現地に行っていた際…”と言う出だしの台詞からその役柄の重要な現地体験を伝えるシーンをこれから演じるとする。私は戦争には実際に行った事はない。その私がこの出だしの台詞を今この場でパッと何とか感情を入れて口に出してみても、全く説得力のないものにしかならないだろう。当然、観客の皆さんはそれに続く体験談についても全く没頭して聴き入り、本当のストーリーだと感じる事は無いと思われる。

 そこで、だ。

 台詞を言うのを先ず置いておいて、創作でもいいからベトナムの戦場で起こった想像上のストーリーを、しっかり頭の中でその情景を描きながら感情を入れて自分の口で少し語ってみよう。そしてその後に、”◯◯◯◯…こんなことがあったんだ…今じゃ考えられないよな…”ベトナム戦争で現地に行っていた際…”と、その感情のままさっきの台詞を繋げて台本上のそれに続く現地体験の流れに入って行ってみよう。どうだろうか。その感情の流れのままで言うと、自分の中でも説得力が増した出だしでそのセリフをむかえられる筈なんだ。そういったアプローチが、自分自身に説得力をもたらす手助けをしてくれる。」

 彼のこの話はとても印象深く僕の心に残っていて、今でも頻繁に思い出します。

 

  先日、『太平洋の奇跡 -フォックスと呼ばれた男』という邦画と出会いました。

 前回一時帰国をした際に、とあるテレビ局の方の粋な計らいで自分が表現へ進むきっかけとなった僕にとってとても重要な方のひとりを紹介して頂ける事となり、直接お話を伺っている際にご自身の思い入れのある作品としてこの映画を紹介して頂きました。

 この映画は、元アメリカ海兵隊隊員であった作家の長編実録小説『敵ながら天晴』を原作とした、太平洋大戦中のサイパン島で日米軍間で本当に起こった物語を描いている作品です。

 内容に関しては、その繊細かつ大胆なつくり手の力強さを、直接作品を観てご自身の肌で感じて頂くのが一番かと思います。

 しかしながら、俳優としての僕は、鑑賞した後しばらく作品の余韻に浸っていると、自分の中でとある感情が寄せては返しを繰り返すことになりました。

 その正体というのが、前述した演技アプローチでした。

 劇中、長期間飲み水もままならない状態の中サイパンの熱帯雨林を常に緊張感を持って移動を繰り返す軍人の役柄を、数多くの俳優が汗まみれになって演じています。

 

 僕は、戦場に行った事はありません。

 しかしながら、自分でその感情の中に自分を巻き込む事で到達できる表現がある。

 ただ、もし自分自身が本当にそのアプローチに自分の経験値も織り交ぜた延長線上で作り込んだ役柄を演じるとなった際、果たして今回のような実際の人物、物語を原作とした題材に耐え得る表現にまで到達することが出来るのだろうか?

 世の中には国内外問わず、それぞれの歴史の中にある戦時中を描き鑑賞者の心を打つ作品がたくさんあります。勿論、そこにそびえる表現の壁は巨大である事は一目瞭然です。

 ですがその分、それに立ち向かう撮影までの準備期間を想像すると、僕自身の表現者としての情熱や動機の根っこの様なものがとても掻き立てられます。事実、今までそうやって一つ一つの壁を乗り越えて来ましたし、その経験の上に現在国を問わずにオファーを頂けている俳優としての自分があるという実感があります。

  しかしながら、それを加味したとしても「もし自分がこの作品のカメラの前に立っていたとしたら」、「完成後初めてスクリーンの中で自分の表現を眼にしているとしたら」、「実際に戦争を体験した方々を隣に出演者として同じ客席で鑑賞しているとしたら」。

 果たして今の自分はどこまで観客と自分自身に説得力を持ってその場にいることが出来るのか。あまり具体的に想像できませんし、軽率に想像するのも失礼な気さえします。

 それくらい、「戦争」を描くという事はそれを題材にする側に対して、立場を問わず「覚悟」や「責任」を伴わせるテーマであるという事を、この『太平洋の奇跡 -フォックスと呼ばれた男』を観て強く、そして濃く感じました。

 「戦争を経験していない世代」という言い方を耳にしますが、実感としては、僕は「実際に戦争を体験した方々の話も聴く機会が極めて少なくなった世代」という表現の方が正しい感じがします。

 その世代であるからこそ、今回この作品を鑑賞して印象深く残ったシーンの一つ一つは、今後日本国内、国外関係なく自分自身が戦時中を描く作品へ出演する際の「覚悟」と「責任」を改めて思い返す、厳しさを含んだ指針となると思います。

 

 一歩踏み込んだ作品には、その実現に一層高い課題が持ち上がる。

 善くも悪くも、自分が向かう先の「心構え」とは何なのか。  それを劇中のシーンから考えさせられる。そんな、鑑賞体験でした。

ふくち ゆうすけ

1984年足利市生まれ。俳優。
20代を東京、欧米で過ごした後、独学で中国語を修得。現在台湾、シンガポール、中国、日本を拠点に活動、その各国に主演作品を有している。近年、自身の水彩画やエッセイなどの創作が注目を集め、書籍出版や連載、講演等の依頼へも積極的に参加している。

studio@yuwiyuwiyuwi.com
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