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ルバーブ

20世紀を代表するイギリスの園芸家、クリストファー・ロイドが生まれ、生涯を過ごした邸宅、グレート・ディクスター。建物は15世紀に建てられ、以後何度も増改築が行われてきた。ロイドが提案してきた混植花壇の庭は今でも弟子たちによって守られている。その一角には食料を育てている庭があり、大きなベルのような素焼きの陶器がいくつも並んでいた。これはルバーブフォーサーといい、赤や緑の茎を持つ植物、ルバーブを育てるための道具である。ルバーブは私が一番好きなジャムの種類で、火を通すと容易に煮崩れ、独特の酸味がある。
ルバーブフォーサーは冬越しと早春の伸びをよくするために使われ、てっぺんの蓋で光の調整を行うことで真っ直ぐに美味しい茎を育てるそう。実際の役割だけでなく、畑の鑑賞物としても愛されてきた道具。
数年前、友達がどうしても、このルバーブフォーサーが欲しいと言いだし、上手く育ったらお裾分けにあずかれるかも、という下心でイギリスから二個持ち帰った。高さは45センチ、空港で計ってもらったらなんと一つ重さ10キロ。壊さないように梱包し、運ぶのは一仕事だった。無事友達に手渡した時にはよくやった、と自分を褒めた。
しかしながら、友達はルバーブを育てている気配がない。ルバーブ目当てに必死に運んだが、いまだに庭の片隅に置かれている。その姿を見る度、あの苦労はなんだったのか、と可笑しくなってしまう。

塩見 奈々江
しおみ ななえ/1983年東京都渋谷区生まれ。幼児期をイタリア、イギリスで過ごし大学進学でフィレンツェに渡り10年間暮らす。 現在は足利市の里山と東京の2拠点で暮らしながら、展示会やネットなどでヨーロッパの古道具を扱うBAGATTOを営む。
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