2月14日から足利市立美術館で「Printing-Popularity 和と刷りの交差」が開催されている。同展は、歌川国芳の浮世絵を見せるところから企画され、浮世絵と深いつながりのあるマンガを個人のコレクション作品より展示している。またこの間に現代の作家、秋山佳奈子、石原七生、川村紗耶佳、柴田七美、丸山浩司の5人の作品を展示し、さらに和の美術を深めようというもの。
展示室1 「浮世絵と大衆文化」

浮世絵と大衆文化を5つのテーマ「戯画」「名所絵」「相撲絵」「美人画」「双六」に分けて展示。
「戯画」は滑稽や風刺を指す。歌川国芳は江戸時代後期の武者絵を得意とした絵師で、戯画も得意としていた。小さな人が寄り集まって顔を形づくっている仕掛けは、どれもユーモラスな作品。
歌川広重の《江戸名所両国夕涼》や歌川国丸の《両国納涼図》などの「名所絵」は、庶民たちが浮世絵を見て名所に行った気になったり、観光案内のような意味合いも含まれていた。葛飾北斎の作品には、蔦屋重三郎の店「耕書堂」もある。さらに《琉球八景 筍崖夕照》は、あちこち旅した北斎も沖縄にはいっておらず、幕府が出した情報から「琉球」を描いたものも。 諸国名橋奇覧は全国の珍しい橋を描いたもので《足利行道山くものかけはし》もその一つ。
相撲は江戸時代人気のスポーツで、「相撲絵」は役者絵などと同様に浮世絵の題材になっていた。
「美人画」は今でいうブロマイド的なもの。うちわにもなっていたが、うちわになる前の刷りの状態で残っているのは大変貴重。推し活グッズの走り。
「双六」には、大奥の様子が描かれたものもあり、庶民が大奥の様子を知ることができた。
展示室2 「和と現代の美術」





現代作家5人の作品の展示。今回のテーマ浮世絵に版画は直結した技法だが、それ以外の和と関係する作品も含まれている。
<柴田七美 作品> 能や歌舞伎の所作を通して、それらを直接描くのではなく、柴田さんが感じた動きの中の軌跡が作品のテーマになっている。浮世絵もテーマとして含まれている作品群。能の動きの特徴的な部分を表している。油彩画の場合は質感を大事にしており、ペインティングナイフをよく使っているとのこ。エッジを利かせて自分の意識も大事に描いているそう。
<秋山佳奈子 作品> 『一目千本(ひとめせんぼん)』は千本の桜が一目で見渡せる所。奈良県吉野山の桜が見える絶好の場所を表している。また、蔦屋重三郎が出版した、花魁を花に見立てて紹介した見立て本(浮世絵師:北尾重政)のタイトルでもある。秋山さんは、もともとバニーガールを花に例える作風で描いているが、今回は《一目千本》と題し、花器にバニーガールを刺し、花の名前を含めた形で描いた30点の作品群で、花の名前と着物の柄に特徴を持たせている。秋山さんは「すでに名前の読み方が変わってしまい、本の中の花と全く違うものが描いてある場合もあり、結構調べながら制作してきました。また野藤と藤の違いとか、野藤は左巻で普通は右巻きだそうです。これまで知らなかった知識も増えました。」と制作時のエピソードを語る。
<丸山浩司 作品> 作品は、水の流れや大気の流れを表現しているところが特徴。今回は多色刷りだが、最近はモノクロームの作品もあるようだが、あえて今回は浮世絵に合わせ、多色刷りの木版を同美術館がリクエストしたという。「実家が染織屋なので、反物がいっぱいある中で遊んでいました。絞りの糸を解くことなども遊びのひとつ。足利銘仙を表現したものもあります。布をモチーフにしているため、木目にバイアスがかかっているものも多いです。飽きっぽい性格でコロコロ作風が変わっちゃうんです」と丸山さん。
<川村紗耶佳作品> 水性木版画で水含んでいて、重ねていく作品が多い。木目も特徴的。かなり重ねているので、同系色でも作品によって微妙に変わっている。動物や植物が登場し、物語が作品の中を流れている。記憶がテーマになっており、曖昧になる記憶、自分の記憶であって自分のものではないもの、場合によっては夢の中のような作品もある。
<石原七生 作品> 元々は日本画の技法から始めていたが、今はアクリルと日本画混合で、アクリル、岩絵具、さらにアルミ箔を使用している。作品に描かれているモチーフは海から山まで、あるいは太古から現代までと、さまざまな事象が混在している。《くさびら やまつみ わだつみ》は物語の中の非日常を描いていて『くさびら』(人間ほどの大きな茸が屋敷中にはえ、困った何某が山伏に退治を頼むが、ますます増えてしまい、二人はついに逃げ出すというパロディ)という狂言の演目から着想を得て描いている。石原さんは「茸ははじめ菌なので実態がないが、着床すると実態を持つところに面白さを感じました。これを制作した当時は東日本大震災の影響も残っていて、なんとなく不安を感じていました。得体の知れないものと恋物語を合わせたもので、人がたくさん出ていまが、私が描くのは女性だけです。飛行機も登場します、町田の飛行場の近くで育っているため身近でした。」と作品を解説。澁澤龍彦の『高岳親王航海記』は、高岳親王が天竺を目指して航海をする物語。そこに描かれた者たちに着想を得て描いた作品が《対蹠地 捨身飼虎の物語》。虎がキーワードの話で、高岳親王は最後に虎に食べられてしまったのでは?という終焉も書かれている。
展示室3 「戦後日本マンガ概観~ある個人コレクションより」

個人のコレクター西間木隼人氏が、30年かけて集めた1,200点のコレクションの中から35作家・63点の作品を展示している。浮世絵とマンガのつながりは深く。「戯画」がマンガの源流ではないかと言われている。遊び絵や風刺画、北斎漫画であるとの説もある。今回は戦後の日本マンガ史を巡りながら、個人コレクターのテイストも含め展示している。
出品作家4名のインタビュー
ー今回の出品は浮世絵に関連づけた作品ですが、ご自身が浮世絵を意識して制作した作品はありますか?
柴田さん:和風のモチーフにこだわらずに制作していたのですが、描いているうちに、日本では昔から人体がどのように表現されてきたのかを、立ち返ってみたいと思うようになりました。絵や版画、映像作品、芝居などの作品媒体の中で視覚的にどのように描かれてきたかに興味を持ちました。それを絵画に落とし込むという作業をしています。和風のモチーフに関心が向いたときに今回の展示のお話があり、改めて観てみようと思い今回の作品になりました。
秋山さん:私は元々遊郭関係のことを調べていたので、当時の遊郭のことを知るために、浮世絵が一番わかりやすいので、参考にすることは多いですね。
石原さん:日本画を勉強しているときに、なんだろうという疑問から、日本美術を歴史から振り返り、スタート地点に立ち返ったとき、「刷り」の浮世絵は構図などを参考にすることはあったのですが、「肉筆」の浮世絵に関心があって、そこがスタートになりました。版画の技術的な方向にはいかなかったです。どうやって描いていくのか、引用などを現代に落とし込むにはどうしたらいいのか考えて描いています。
丸山さん:学生の頃、彫り師と刷り師のデモンスとレーションを見たとき、藍ぼかしという空のグラデーションがめちゃくちゃ綺麗で感動しました。僕の作品にはほぼグラデーションが入っていますが、この感動からきています。学生の時はどう描いたらいいか悩んだときは、ぼかしの技術的な方向から入って模索していました。


