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若杉実の裏口音学 Vol.122

2024 10/09
裏口音学
2024年8月28日2024年10月9日

パリはまた・・燃えているか

 クラフトワークがフジロックに初参戦した。本誌の公演欄に載るようなグループではないが、1998年の二度目の来日以降なにげに訪日が増えているような。いずれはベンチャーズみたいに地方巡業をしたり、グレン・ミラーのようにメモリアル楽団化していくような気がする。
 クラフトワークはテクノということばがなかった時代からテクノらしき・・・ものを演奏していた。テクノの歴史をつくったわけだが、それだけにメンバーは高齢で、メモリアル楽団化は避けられそうにない。
 そもそも彼らがつづける理由はなにか。そういう音楽だから、としかいいようがない。“最新作が最高作”という惹句があるほどテクノは鮮度が命。裏を返せば、作曲をつづけることが傑作を生む最短距離となる。
 そのような使命とは正反対に、彼らの作品は“最長距離”をテーマにしたものがすくなくない。1974年の4枚め『Autobahn』(下枠)は文字どおりドイツの高速道路がモチーフ。名盤だが、表紙は安全運転のしおりのよう。免許更新のたびにいただく例のアレを自宅まで持ち帰り書棚にならべるひとはあいにく知らないが、『Autobahn』を何十年と棚に鎮座させているひとならたくさん知っている。

 その『Autobahn』から9年後のシングル「Tour De France」では予想外のことがおこった。クルマから自転車(競技)へ、テーマは変わらず“長距離”だが、最初の発売から急きょ“BREAKDANCE”の文字を追記した表紙が出回る。同名映画で使用されたことが理由だが、じつは映画のサントラには入っていない。勝手に使用したから(エンドロールには明記)との憶測が立つが、流れた場面は裏のハイライトといえるほど重要なひと幕。準主役のブガルー・シュリンプがホウキに魔法をかけいっしょに踊るというトリッキーな演出に、未来的かつ幻想的な「Tour De France」がハマッたのである。
 映画に明るいひとなら、これが『恋愛準決勝戦』(1951年)からの引用であることに気づくだろう。ジャズダンスを華麗に舞う主演のフレッド・アステアが相手に選んだのもホウキだった。ダンスも音楽も双方ちがうが、見比べるところはそこではない。“踊る芸術”と称され革命をもたらしたアステアと、未来の革命となるブレイクダンスが、米奴隷時代に生まれたジュバというスタイルを同根にしていたこと。さらにそこから大衆化へと歩が進むなか、淘汰されていく物事の意味や本質を読み返す意義である。

 「Tour De France」から40年、ヒップホップダンスは必修化となり、またある中学では部活からの除外を決めた校長に、保護者から再開を望む嘆願書が届けられるというニュースがトレンド入りした。「生徒かわいそー、校長わかってねー」という世論に対し、呂布カルマが「そういうのは勝手にやるものだから」と、経験者である私個人の考えに寄ったツイートをしている。というより、教育者に認められてしまった時点で大事なものが抜きとられたように感じるのは私だけだろうか。
 おりから五輪初競技のブレイキンがエッフェル塔を背にバトルをし、かつてその広場でポーズをとったエッフェル姉さんがガサ入れされるニュースも飛び込んできた。パリはまた・・燃えているか。夏の陣、運命やいかに。

KRAFTWERK
「Tour De France」
(EMI)

KRAFTWERK
『Autobahn』
(Philips)
美しく整備された電子音の粒立ち。元祖テクノとは安易に呼ばせない、そんな矜持ともいうべき22分強の尺(表題曲)から、荘厳のシュヴァルツヴァルト(黒い森)が浮かびあがる。「Tour De France」は、現唯一の創設メンバー&リーダー、ラルフ・ヒュッターの自転車趣味が高じて制作。しかし、その乗車中の事故や使用機材の練り直しにより予定のアルバムが頓挫。ツール・ド・フランス百年記念として2003年にアルバムが復活した。

プロフィール
わかすぎ みのる:足利出身の文筆家。 CD、DVD企画も手がける。 RADIO-i (愛知国際放送)、 Shibuya-FMなどラジオのパーソナリティも担当していた。 著書に『渋谷系』『東京レコ屋ヒストリー』 『裏ブルーノート』 『裏口音学』 『ダンスの時代』 『Jダンス』など。ご意見メールはwakasugiminoru@hotmail.com

裏口音学
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