「麦味噌」作り
日本唯一の二条大麦製

今から20年前の平成16年。日本料理や美術品を扱う足利伊萬里グループの二代目社長・大竹加寿博さん(75)が、地元の二条大麦を使った味噌づくりへの挑戦を始めた。「〝足利は麦がすごい〟ということをもっと伝えたい」という、故郷への愛情がきっかけだった。
昔から水稲の裏作として、大麦や小麦の栽培が盛んな足利市。栃木県の二条大麦の生産量は全国2位(昨年)で、湿気に弱い麦にとって生育に適した環境の足利でも、高品質の麦が多く作られている。
しかし、味噌の開発は難航した。何百回も試作を重ねるが、忘れられぬ母の手作り味噌汁の味は再現できない。ここの大麦はすごいと大竹さんが力説しても、「作っている農家の人さえ『あ、そうなの』と盛り上がらない」空気だった。
終わらぬ「金」への挑戦

それでも、大竹さんの情熱に心を打たれて、協力者は徐々に現れた。発酵食品専門家で菌に詳しい、渡辺杉夫さん。「いい仕込み、いい環境で育ててあげれば、いい物ができる」が信念の、味噌醸造技術師の神保隆さん。「社長のために死んだ気になってやってやるよ」と言ってくれた、県産業技術センターの食品技術研究員さん…。
そうして4年の日々を費やして、ついに納得のいく味噌が完成! 日本で唯一の二条大麦味噌が誕生した。製造には時間もコストもかかったが、自分達の損得よりも、足利の麦を世の中に広めるための〝情熱を持った味噌〟なんだ、と大竹さんは胸を張る。
「挑戦は苦しかったり相手にされなかったり、孤独の世界だったけど、それを超えていくと自分の満足感になった。それも経験だ」。
記者も試食してみた。きゅうりにつけて食べると味がよく分かると大竹さんに教えられ、実践してみると…素朴で香ばしく、味わい深い! 添加物を使わず天然で作ることに、こだわっているそうだ。
しかし、二条大麦味噌はまだまだ発展途上だという。商品パッケージの〝銀丸印〟という愛称には、「金ではなく、まだ銀。いつか金に」という思いが込められている。足利を熱く愛して「金」の味噌の開発を目指す大竹さんの挑戦は、まだまだ終わらない。

取材=長嶋優太・竹居あいみ・大橋爽乃
[白鴎大学地域メディア実践ゼミ]