5月のゴールデンウィーク(GW)が終わると、これからの梅雨入りを前にして、足利のまちも本来の静けさが戻る。「本来の静けさ」というと聞こえはいいのだが、これでは皮肉を込めた言い方になってしまうのかもしれない。本来は、というと、街なかはにぎやかな方がいいに決まっているのだ。GW期間中は「あしかがフラワーパーク」などを訪れた観光客が、市の中心部の足利学校や鑁阿寺に足を伸ばしてくれるので、周辺もにぎやかになる。
5月は、中旬を過ぎると全国各地で「クラフト展」が開催されている。もちろん同様企画は1年を通して各地で行われているのだが、この時期は特に大きい「クラフト展」が他所の県であったりして、小生の中では「5月の末はクラフトの季節」という思いが強い。
さて、この時期、両毛地域でもいくつかの工芸、またはアートのイベントがあった。
最近ではその知名度も浸透してきたと思われる、佐野市の旧田沼地区の工芸作家を中心にした「アート街道66」のメンバーも、5月末に3会場を使って数人ずつがそれぞれ「器まるごと展」「暮しまるごと展」「日本の美まるごと展」というのを開催した。
「器…」と「暮し…」は、作家の工房を使ってのものだったが、「日本の美…」は、佐野市下彦間にある古民家を会場としていた。この古民家は明治時代末に建てられたもので、母屋だけでも100坪にもなろうか(多分)というとてつもない大きさのものである。10年くらい前から空き家となっていたが、現在は大松寺の別院となっている。ここに7年くらい前から目をつけていた正藍染師の大川公一さんが中心となり、8人の作家の作品を展示していた。
柱や梁や桁の、どれをとっても今の時代に同じものを造るのは不可能といいたくなるほどの重厚な母屋に展示されたそれぞれの作品が、「日本の美」を主張しているようだった。
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同じ日、やはり古民家を使っての催しが、足利のまちなかで企画されていた。大門通りの松村記念館のほか3軒の空き家で、8人の作家の器に5人の華道家がいけた花が展示された「はなうつわ」というイベント。企画したのは「呑龍文庫ももとせ」(太田市)を主宰する木口和也さん。木口さんは東京でデザイン会社を経営しながら、週末は太田市で、ギャラリーを兼ねたカフェ「呑龍文庫ももとせ」を開いている。
「ももとせ」は人々が集い、仲間と出会い、作品を見せ合い、意見を語る。志のある人が集まれば、自然と動きが生まれる。その「人と話す」場所としての空間——(同店HPより)ということで、平成23年にオープンしたらしい。古い知人から話には聞いているのだが、まだ一度も行ったことがないので、近い日に足を運んでみようと思っている。
そんな木口さんが企画した「はなうつわ」は、静まり返った足利の街なかに、風と光を吹き込んだ。今にも息を引き取ろうとしている患者を、見事に生き返らせた、医療の世界で言う「ゴッドハンド」まさに「神の手」のよう。(ちょっと大げさかな?)
「はなうつわ」は、「花と器」である。木口さんが、普段から交流のある、うつわ作家8人を選び、この作家たちの作品に、やはり交流のある5人の「はないけ」の作家が花を生ける、というもの。全員が30代、40代という若手である。その作品が、市中心部の空き家や古民家に展示されたのだ。 この企画は、もともと足利の街並み・古民家に魅力を感じていた木口さんが、足利で古民家を再生しようというグループ(あしかがまちなか探検隊)と出会い、この日の企画が実現した、という。
久々に「足利らしいイベント・企画」を見させてもらった、参加した気がした。常々言っていることであるが、イベントは「人を集められるなら、何でもいい」ということではない。なくてもいいイベントだってある。この街に必要なのは「足利らしい企画」なのである。
「はなうつわ」を見て感じたのは、質の高いディレクター、プロデューサーがいるかどうかで、イベントの成否が決まるということ。「まちづくり」も同じであろう。