弊誌は37年目。足利人ではない小生は初期のころには、たくさんの方に「足利のこと」などを中心に教えていただき、お世話にもなった(今もだが)。そして残念だが、そのような方が、また一人亡くなられた。元足利商工会議所専務だった中島粂雄さん。ご冥福をお祈りいたします。
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「326」創刊のころに時々読んで(見て)いた雑誌のひとつに「暮らしの手帖」があった。隔月刊の同誌のウリのひとつが、スタッフによる徹底した「商品テスト」だった。
戦後の主婦向けに電化製品をはじめさまざまな商品をテスト、その結果を掲載しているのだが、そのテストのやり方が凄まじかった。
たとえば「トースター」のテスト。これだけのことに、使った食パンが4万3000枚だそうだ。ほかの号では「じゅうたん」のテスト。これは3年かけて40万歩、事務所に敷いたそのじゅうたんの上を実際に歩いたという。とにかくありとあらゆるものの商品テストをこんな具合にやっている。
実は郵便番号が導入されたときにも「暮らしの手帖」は実験をやっていた。全国のあらゆるところに、郵便番号を書いたハガキと書かないハガキを同時に発送して、その配達具合を調査したのだが、当時の結果は郵便番号を書いても書かなくても(確か)ほぼ同じだったというものだった。
弊誌でも、この郵便番号というものに疑問をいだきながらも「誌名」にしてしまったのだが、もともとは人や地域を番号で表記するということに「何だよー、オレの名前はどこへ行っちゃったんだよー」という小生なのである。
さて、4月からのNHKの朝ドラは「とと姉ちゃん」。初っ端から話題になっているが、モデルはこの「暮らしの手帖」を花森安治と創刊し編集長になった大橋鎭子。ドラマは始まったばかりだが、かつては「暮らしの手帖」のような地方誌をつくりたいという夢を持った身としては、ちょっぴり気になる。そうそう、このドラマの撮影協力として足利市も関わっているということで、足利市民にとっても興味深いことではないだろうか。
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お世話になっているといえば、弊誌に毎号「裏口音学」を寄稿していただいている音楽ジャーナリストの若杉実さんが前作「渋谷系」に続いて「東京レコ屋ヒストリー」を新刊した。戦前から現在に至る東京のレコード店の、タイトルにもあるように「歴史」と、経営者としての店主の思いが、若杉さんの丁寧な取材と豊富な資料をもとに、じつに詳しく、細やかに、そして年代別に書かれている。その屋号を見ただけで懐かしい青春時代を思い起こす弊誌読者も少なからずいるはずだ。
若いころは、毎日5~6軒の中古レコード屋めぐりをしていたという筆者。なぜそこまでしたのか。「本当に探しているのはレコードではなく、レコード屋。レコードはもとめるものではなく出会うものであり、その出会いをもとめてレコード屋を探しているから」という。
たしかに本文を読み進むうちにそのことがはっきりとしてくる。なぜなら、そこに書かれているのは、レコードに関わる人間模様なのである。この一冊の中に、いったいどれくらいの人が登場しているのだろう? ジャズ、クラシック、演歌、ポップス、フォーク、ロック、役者、作家、小生にはもはや理解できないジャンルの音楽から経済人まで、それはそれは多彩で、それを文中に見つける(といっても、全頁にわたっているのだが)だけでも、楽しくなってくる。いかなる音楽でも多少の関わりを持った人にとってはうれしいネタばかりなのだ。特に213頁の〈ことばのまえにあるもの〉という小見出しの中での遠藤賢司、三上寛、五木寛之らの話には決してレコマニアでない小生だからこそ引き込まれたのかもしれない。
さて、わが国に初めてレコードが輸入されたのが明治36年。SP盤からLP盤になり、やがてCDとなったのは記憶に新しいところなのだが、今のネット社会において、このCDも全盛期(1998年)の3割に激減しているのだそうだ。それでもオンラインを立ち上げるなどして健闘している店もある。が、「あと10年」という人もいる。「今CDを買わない若い人は、トシをとってもCDを買わない」から。
そうそう、オンラインショップの欄で足利市の「ヴィンテージ・レコード」を紹介しているのも地元ネタとしてうれしい限りである。中古レコード屋としては全国でも特に早い段階でホームページを立ち上げ、成功しているのだそうだ。
近ごろ、アナログのレコードにまたしても人気がもどりつつあるという。たしかにそんなニュースをどこかで見た気がする。今の状況を著者は「CDの登場によりレコードの生産を早々と打ち切り、CDプレーヤーの販売促進とばかりに市場からアナログプレーヤーを駆逐し、時代がダウンロードに変わるとその矛先は昨日までの友だったCDに転じ、袂を分かったはずのレコードをみたび駆り出す」と訝る。
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2年ぶりの若杉さんの新刊は461頁にもおよぶが、各章ごとが短編小説のように読むことができ、読者を飽きさせない。若杉さんが「どれほど力をいれたか」というのが伝わる一冊である。
「レコード屋に行きレコードを買うこと、それはわたしにとって呼吸をすることといっしょ」(若杉実)
発行元:(株)シンコーミュ-ジック・エンターテイメント
四六判/461頁/本体1,800円+税