『素通り禁止!足利』は、古いまちの、新しい挑戦

 足利市のキャッチコピーが決定し、缶バッジやコースターなどになって市内に出回ってきた。大分評判は良いそうだ。

    素通り禁止!足利

 選んだのは「足利市シティプロモーション推進協議会」の人たち。プロのコピーライターが作ってきた100点以上の中から、「素通り禁止!足利」を選んだのだ。

 しかし、市の担当者は大変だったと思う。上層部や議会の了承を得られるかという、大きなカベがあっただろう。さらに実際にこうしてバッジやコースター、卓上のぼりなどが、そちこちで見られるようになると、いろいろな意見が聞こえてくる。「こんな高飛車な文言で、観光客の評判を落とすんじゃないか」「何を言いたいのか、分かんねぇよ」単純に「こんなコピー、ダメだ」というのもある。とにかく、どんなコピーにしようが、ゴチャゴチャいう人が必ず出てくる。

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 では、どんなコピーならそういう人たちが満足するのだろうか?  コピーライターの川上徹也さんが書いた『自治体のキャッチコピーは、なぜ“メルヘン化”してしまうのか』という文章が、実にわかり易く説明してくれている。

 川上氏は、自治体のキャッチコピーは、『空気コピー』のオンパレードだという。その代表的な単語は「ふれあい」「やすらぎ」「ぬくもり」「わくわく」「はぐくむ」「水」「緑」「海」「里」など。これらに自治体の名物を組み合わせれば、できあがり。すべてが、とはいわないが、大半がそんなもの。その結果、みんな似たようなものになってしまって、どこの自治体なのか区別がつかなくなっている。あってもなくても同じ、空気のようなもの、と。

 さらに、空気よりも恥ずかしいのが『メルヘンコピー』だそうだ。
 神奈川県藤沢市が発表したキャッチコピーは「“キュン”とするまち。藤沢」だった。同市に住む川上氏は、恥ずかしくて「キュン死」しそうになったという。

 ところで足利の『素通り禁止!足利』は、「シティプロモーション推進協議会」が半年以上に亘って定期的に検討してきた結果のものである。昨年秋には一般市民を対象にしたキャッチコピーづくりのワークショップを行い、すべての参加者がそれぞれ考えたキャッチコピーを発表した。しかし、小生の予想通り、ここで発表された作品のほとんどが、この『空気コピー』や『メルヘンコピー』だった。歴史や文化があって、自然も豊かで、最近は夕日も話題になっている。誰の作品も、多かれ少なかれ、それらを象徴するワードが出てくる。

 ある人に「キャッチコピーって、公募じゃダメだったの?」と聞かれたことがある。すかさず「公募では、このコピーは出てこなかったでしょうね」と答えたものである。「つまらないコピーが、全国の自治体に出てくるのは、公募などで寄せられたものを、自治体の偉いオジサンたちが“これでいいんじゃない”と言って選んでしまうことが要因」と前出の川上氏が述べている。足利の場合、そうならなかった。

 では全国の自治体のキャッチコピーで、話題になったものをいくつか見てみる。  
 ・ないものは ない! 海士町 (島根県)
 ・住めば愉快だ 宇都宮 (栃木県)
 ・うどん県    (香川県)
 ・おしい! 広島県  (広島県)
 ・母になるなら 流山市  (千葉県)

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 さて、『素通り禁止!足利』だが、これは足利市民に向けてのものと思う。素通りされない(素通りしない)ように、すべての市民が自分自身を磨こうよ。まずはそこから、ということだろう。「古いまちの、新しい挑戦」としてほしい。

 今後、このキャッチコピーに合わせた企画などを実施するのであれば、それは市民向けのものがいい。決して、街のそちこちに『素通り禁止!足利』の看板を立てないで、と願う。