何かが、変わりそう
山桜が咲き始めたころ、あるお茶会に誘われた。緩い坂の突き当たりにあるKさんの茶室は、すぐ裏側から山が始まるところで、芽吹いたばかりの木々たちが春の香りを振りまいていた。
受付けをすませ、慣れない雰囲気の中でおろおろしていると、Kさんのお嬢さんから某市の市長さんの奥様を紹介していただいた。実は奥様とは昨年の秋にやはりKさんを通して一度お話をさせていただいたことがあったのだが、小生がそのことを失念していて、その場の会話がかみ合わないものになってしまった。その後同伴のものに注意され、やっと自分の間抜けさに気がついたのだが、時すでに遅し。それからその場を辞するまでの約1時間がいつもの2倍にも3倍にも感じたものだ。Kさんのお嬢さんには、帰り際に自分の非礼を詫びて退席したのだが、「穴があったら入りたい心境」を保持したままGWに突入していた。
それから2週間ほどして、各種イベントが賑やかに繰り広げられたGW期間中のまちなかのある店で、昼食をとった。年に2~3度くらいしか行けないのだが、そのたびにおいしくいただいている。行っても特別なあいさつを交わすわけでもないので、小生のことなど覚えてはいないだろうと思っていたのだが、会計の際にこちらは何も言ってないのに「いつもお世話になっています」と声を掛けられて驚いた。小生のような、滅多に行かない客のことを覚えていて、そして気遣いの言葉を掛けていただいた。
30近い客席はほぼいっぱい。味はもちろんだが、こうしたちょっとした心遣いが人をひき寄せるのかも知れない。前段の小生の話の後に続く出来事だったものだから、余計にそのことを考えさせられた。
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同じ時期に「あしかがフラワーパーク」を運営する株式会社足利フラワーリゾートの早川公一郎社長にインタビューをさせていただいた。
「あしかがフラワーパーク」といえば、今、足利市民の大きな話題となっているのが同園に隣接したJR両毛線の新駅構想である。DC(デスティネーションキャンペーン)の本番である来年春の開業を目指しているという。これまでは構想であったが、このほどJRと足利市での基本協定が締結され、事業として7月ごろから工事がはじまるようだ。
ところで、この構想が発表されて以来、何人かの方から賛否両論をいただいた。否定論は『なぜ市税を投入するのか』とか、『富田駅から1kmあるかないかの距離なのに近過ぎないか』とか、『ほんとに車の渋滞がなくなるのか』というものだ。
ごもっともな意見である。小生はこれは『市民の心配』ととらえている。当然のことだ。
駅ができても、藤の季節、イルミネーションの時期の車の渋滞はなくならないだろう。が、緩和はされると思う。「あしぎん総研」が「あしかがフラワーパーク」で昨年実施した、同園への車での来場者アンケートによると、「あしかがフラワーパーク」に隣接して駅ができたときには20%近くの人が電車に切り替えるという結果だったそうだ。そのとおりなら、おおよそ2割の減少だ。まちなかの魅力を高める工夫・PR次第でもっと減らすことができると思う。
次に『富田駅から』だが、1kmというのは確かに近い。徒歩で12~13分だ。しかし同じ路線上にあって2004年に開業した高崎問屋町駅は、隣の井野駅から1.2kmという。この200mの差をどう見るかだ。
そして『市税の投入』について。これは市民が一番気になるところだろう。駅舎や「Suica」などの機器設備費などで11億円、駅前広場の整備に4億円、合わせて15億円の事業費となるという。このうち駅そのものに関しての7割と広場の整備を市が負担する。『えー、7割も…』という市民の声もあるだろうが、新駅を設置する場合は自治体が大半の費用を負担するのが常識というなかで、JRも負担するというのは異例だそうだ。それだけJRとしての期待が込められているということだろう。今年「新小山市民病院」が新設された小山市では、宇都宮線の小山と間々田駅の間への新駅設置の要望が市民から上がったが、結局断念したという。新駅の設置はまことに厳しいのだそうだ。
さてさて、新しく駅をつくるというのは、そのまちあるいは周辺地域の勢いを感じさせるものであろう。現に、東京に住む小生の何人かの知人友人にこのことを伝えると、賞賛(?)のメールが送られてきた。『足利が元気に見える』と。市外の人にはそう写るのだ。
だから、今を絶好のチャンスととらえたい。市民が不安に思うのは、こんなチャンスが過去になかったから。いや、あってもそのチャンスをものにできなかったからだと思う。今号の対談の中で早川社長も言っているように、この春の「山姥切国広展」に際して発揮した市民力を活かせば、これを機に「あしかがフラワーパーク」に頼らない『まちの活性化』ができる、と思う。その方策もある、はずだ。(今号の対談をご覧ください)