ブランディングのための決断

 先だって、足利のまちなかの古民家を使って、アートイベント「CON展」が開催されていた。参加したアーティストは31人。期間は1週間。どれくらいの人が会場に足を運んだかは確認してはいないが、普段はほとんど人影を見ない歩道にパラパラとではあるが、アート散歩かな?と思われる人たちが見受けられた。

2016年足利アートイベント・CON展

 同じようなイベントが今年5月末にも行われていて(主催者は別)、今どきの足利に相応しいイベントになっていたと思う。

 ところで、このようなアートイベントだが、近年は全国の地方(都市)で盛んに開催されている。

 福武書店(現ベネッセコーポレーション)の社長だった福武總一郎氏(現顧問)1990年ころから瀬戸内海の直島などで行ってきたアート活動が3年に一度の「瀬戸内国際芸術祭」へと発展。2000年には新潟県の十日町市周辺の6市町村で始まった「大地の芸術祭 越後妻有アートトリエンナーレ」、2007年には群馬県中之条町で2年に一度開催する「中之条ビエンナーレ」が、また今年は、茨城県の北部6市町で「茨城県北芸術祭」、さいたま市では「さいたまトリエンナーレ」、これ以外にも多くのアートイベントが、全国で開催されているはずだ。

 ここに列記したアートイベントの特徴は、それぞれが相当な数の人を集めているということ。。「瀬戸内国際芸術祭」の1回目でさえ94万人(105日間)、昨年開催された「第6回 大地の芸術祭」が50日間で51万人。「中之条ビエンナーレ」の昨年は31日間で47万人もの来場者だった。。また、今年初めて開催された「茨城県北芸術祭」は65日間のうち開幕1か月で31万4千人を記録したという。

 ところで、なぜこんなにもアートが頭角をあらわしてきたのだろうか?以前のこの欄で「創造文化都市をめざして」というようなことを言ってきた小生としては、決して悪い話ではないのだが、この2~3年のこの状況が薄気味悪い。などと思っていたら、山形大学の貞包英之准教授の文章に納得した。氏はその中で、「バブル崩壊によって道路や橋や学校などに対する高額のインフラ的投資が難しくなる中で、より安上がりな投資として、アートによって地域のイメージをブランド化することが狙い」だったという。特に2001年にスタートし35万人を集めた「横浜トリエンナーレ」が成功事例となったのだそうだ。

 因みに「大地の芸術祭」の予算は公的事業費だけでも3億1千万円。「茨城県北芸術祭」は全体予算が5億円。どの芸術祭も、企業・団体からの協賛金を仰いでいるが、「瀬戸内国際芸術祭」では『福武財団』からの協賛金だけでも2年分で2億円(多分11億円ということか)だそうだ。ということは、全体予算は一体どれくらいになるのか?

 どの芸術祭も実行委員長、総合プロデューサー、ディレクターにそうそうたる人たちが並ぶのだから、これくらいの予算になるのは当然というのかもしれない。何十万人という人を新たに呼び込むには、これくらいの投資は当たり前。なので「安上がり」ということになるのだろう。

 「薄気味悪い」といったのは、我われがどう考え動いても立ち上がらない企画(予算規模)だからだ。これほどのものになると、(悔しいが)やはり政治が動かなければと考えてしまう。そうそう、群馬県選出の参議院議員の山本一太氏が「中之条ビエンナーレ」についてを5年前、自身のブログで次のように綴っていた。

 『「中之条ビエンナーレ」の成功は、具体的な数字(来場者数)にハッキリと裏付けられている。約40日間の開催期間中に、県内外からビエンナーレを訪れた人は35万人。目標の20万人(?)を大きく上回った。この数字はかなりスゴい。注目すべきは(予算2500万円という)「中之条ビエンナーレ」のコストパフォーマンスの高さだ。

 「瀬戸内国際芸術祭」や「大地の芸術祭」に、どれだけの予算が投入されているのかは分からない。が、普通で考えれば、恐らく5~10億くらいはかかっているのではないか?2500万円のコストで、35万人を集めるのは、並大抵のことではない。宣伝広報費だって、たかが知れている。逆に言うと、このイベントをもっと内外にアピールし、認知度を上げることが出来れば、入場者はさらに増える可能性があるということだ。ぜひ、群馬県を代表する芸術祭に育てて欲しい』  (以上ブログ抜粋)

●   ●

 中之条と他地区の予算の違いが歴然としているが、それはおそらく、行政が他者に丸投げしなかったからではなかろうか。芸術祭に限らないが、いずれにしても地域のブランディングを図るにはこれくらいの予算(中之条でも2500万円)が必要ということだ。それには行政だけでなく市民、産業界の人たちにも理解をしていただかなければ、である。

 さて、冒頭の「CON展」だが、予算は多少の助成を含めて10数万円だそうだ。もちろん不足分は参加している作家の自己負担。豊富な予算さえあればとは言わないが、これでは、主催者が気の毒。何とかならないものだろうか。

数字はそれぞれのホームページや関連記事などを参考。